魂のラヴレター

美容雑誌・掲載

 沖縄のある町で、民宿を経営している女性がいます。彼女は重度の障害者です。彼女を知ったのは、ある一冊の本でした。彼女の半生が書かれたその小さな本は、勿論、彼女自身の血の滲む努力によって書かれた本です。

 彼女は生まれついての重度の障害者でした。口もほとんどきけす、手足も動かせず、彼女ができることといえば、全身を使っでイモ虫のように這うことでした。その彼女が、民宿を経営するまでの凄まじい半生を、僅かに動かせるその足の指を使って書き、自費出版したものです。

 彼女は農家の家に生まれ、物心ついた時は母親が亡くなり、父親が後妻をもらっていました。農業で忙しい彼女の両親は、彼女を納屋におき、働きに出ていました。毎日毎日、日が暮れるまで幼い彼女は、納屋の窓の外を眺め、自分と同じ年頃の少年少女たちの元気に遊ぶ姿を見ては、ため息をついて暮らしていました。

 ある日、自分の境遇に悲観した彼女は自殺を決意するのです。納屋に農薬が置いてありました。彼女は全身の力をこめ、這いずって農薬のビンが置かれている所へ行き、それを一気に飲みほしてしまいました───

 気がつくと、泣きはらした祖母の顔が心配そうに彼女を見守っていました。天は彼女を、受け入れなかったのです。

 それから彼女は、もう一度生まれ変わって人生をやり直す決心をしました。彼女はおばあちやんに手伝ってもらい、まず歩くことを試みました。雨の日も風の日も二人は歩く努力をしました。けれどそれは無理なことだったのです。

 悲しみの中で彼女は、おばあちやんが押してくれる乳母車に乗って散歩をしていると、ふと、本を読んでいる男性が目にとまりました。その男性の憂いのある顔は、家に帰っても頭から離れず、彼女はそれが恋だということを知りました。〝あの人に自分の心を知ってもらいたい″その気持ちが日増しに高まり、ラヴレターを出す決心をしました。

 僅かに動かせる足の指を使い、筆を持つ努力をし、そして文字が書けるまで、一生懸命でした。ついに一か月かかって一行、全魂がこもった文章が完成したのです。

 彼女は、喜びでいっぱいでした。初めて努力が報われた一歩だったのです。この一行が、彼に伝心るだろうか。きっと彼女は、自分のカで書いたラヴレターが、彼の心に届くかどうか、複雑な心境だったでしょう。

 この本は、表紙の絵も彼女が描いています。幼い女の子の絵が素朴に描かれています。小さな薄い本ですが、実に端的に無駄のないその文章は、彼女の全塊が、こめられています。今彼女は、元気に民宿を経営していると思いますが、この日本の最南端で、彼女のような人が生きていると思うと、心が洗われる思いです。五体満足に生まれ、健康であることで忘れてしまいがちな人間の心。私は時々、星空を見ながら、彼女を神と思って、自分を勇気づけています。